備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

シンボル

  ここでは誰でも、自分のシンボルというものを持っている。例えば少年の友だちは「水銀」をシンボルとするため、体温計が割れたときに中身が溢れて体内に入ったのも大事はなかった。

  シンボルを持つということは、その要素を幸運の符丁にするということ。身近な物であれば羨ましい。例えば「時計」ならば、腕時計を身につけるだけで通常より少し多くの幸運に恵まれるからだ。先の例で少年の友だちが重症にならなかったのも、自分のシンボルからの害は軽減されるからであった。

  またシンボルを持つということは、その要素に人の性質が拠ること。これは人間がそれを何の象徴と見るかに左右される。「犬」に忠義を見る文化と、勇敢を見る文化とでは、これをシンボルに持つ人の雰囲気も変わるようだ。

  少年は自分のシンボルをまだ知らない。いつか自分でわかるもの、と大人には言われている。

  悪魔に身体を取られた少年の親は、彼を生贄にしようとしたが、我に返って目を醒ました。悪魔を封じ込めたまま鉄門を潜り、そのまま死界へ行ってしまう。少年は夢うつつの金縛りで、動けないままそれを見ている。

  祭壇からまず髑髏が、次に能面が浮かび上がった。そのうち混声合唱が聞こえてくると、髑髏も能面も霧散した。

  微かな歌声である。どこの国の言葉かわからないが、少年は、自分の親の死について、誰かが弔歌を贈ってくれているのだと思った。歌が途絶えてくると、虹が昇り、これもまた薄れて消えた。

  以来、少年がどこかに行くたびに、あるいは何をしていても、小さな虹が待っていて、彼が気づくと浮かんで消える。自転車置場や、校庭の隅、道端の影に。また彼が幼年期を終え、青年に、大人になっても、その後の長い人生の中で、小さな虹はこだまのように繰り返し現れることになる。

  ところで、彼の親のシンボルは「虹」であった。少年自身のシンボルは、最後までわからなかった。