備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

ヒヨコ売り

これ以上駆けたら肺と心臓が喉から出てしまう、というくらいに、無我夢中で走っていた。

空は黄ばんだ灰色で、雨が降る前の夏の夕暮れなのだろう。辺りは異様に静かだった。大勢が息を潜めているような気配だけがあり、見張られているのが感ぜられた。

小学校の低学年まで住んでいたマンションに似て3つの棟があるが、階段を上るにつれ、廃ビルのような様相を呈してきた。私を追うスーツの人間たちは、今は姿が見えないものの、すぐそばに迫っていることはわかる。

ときおり夢特有の、足取りの粘つく感覚があり、気ばかりが焦る。この現象がランダムに起こるのか、私の知らない何らかのルールに則っているのかがわからない。

長い廊下を通っていくと、突き当たりの壁が緞帳のようになっており、足を踏み入れると町屋に放り出された。

入ったすぐ右の角に、ヒヨコ売りが屋台を出していた。ピンクや青、蛍光緑のヒヨコがひしめいている。夜店のヒヨコは着色されていると聞いたことがあり、ああ、これがそうかと思った。祭でもないのに商売をしている男は、覗き込む私に2羽ほど掴んで差し出した。それを受け取ってポケットに突っ込み、また走る。

急な段差を数度跳び降りるうちに、いつのまにか家並みは消えて、暗い路地に入ってしまった。壁中を配管が走り、足元が泥濘む。

そこを抜けるとマンションの外に出た。左手に建物を見ると、右は駐車場につながる急な斜面の林である。昔はそこに秘密基地をつくったものだった。ブランコや砂場のある小さな公園がたぶんゴールで、もうすぐに見えてくるはずだった。

突然、またしても時間が狂う。走ろうとしているのに足取りが重く、駆けていくイメージが空回りしている。飛行機に乗ったときのような耳鳴りがした。やはり捕捉されていたようで、もうほんの数歩、すぐに後ろに迫っている。心臓が全身に血を送り出すのを感じる。捕まる前に死んでしまうのではないかと思う。