備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

落ちてくるもの

遠く高層建築物の外階段から、大きな鳥のように、落ちてくる影がある。何か不吉な予感がして、慌てて屋内に駆け込んだ。

午後の陽光が差し込む廊下は、長く、何故だか大学の頃を思い出した。両側にある一つ一つの部屋は独房のようで、それぞれにスピーカーがついており、私はそこから聞こえるはずの声に注意しつつ階を上る。まだそれほど高いところではないはずだが、窓の外を見ると、眼下には薄く雲海が湛えられていた。

どの階にも人はいないが、廃屋と思えない程度には生活感が残っていた。スピーカーは時々音を立て、その度に足を止め耳をそばだてるが、言葉は聞き取れない。

何かが追ってくる気配がして、それは最下層の玄関からなのだが、異様な気配はここまで届いた。静かになってから気づいたのだが、今までは風の音もしていたし、鳥のさえずりも聞こえていたらしい。この頃にはずいぶん高くまで来ていたものの、油断が災いしたのか罠にかかり、足取りが粘つくように重くなる。単に萎縮しただけかもしれない。

上に行くにつれて内装に統一感がなくなり、ところどころ壊れているのか作りかけなのか、配筋が露出している。人がいた気配もなくなってきた。スピーカーの主はすぐ下の階に迫っていたが、私はもう階段を上る気力がない。

(しかもここには昔の思い出もなかった。あれは武器になるので、本当ならしっかり持っていたはず。思い出は古いほど、また大切だと思うものほど強い効力を発揮する。肩のあたりにその余韻はあるのだが、実体として掴むにはいささか頼りなかった。)

ほぼ最上階だろうというところで、疲労が限界に達し、窓から抜けて、ボルトの飛び出た、細い平均台のようなものを渡る。手すりがないので、下から吹き上げる風にバランスを崩し、次の外階段に辿り着いたところで、足を踏み外した。

落下しながら、初めに見た影が私だったことに気づき、なんだ、ループしてるじゃん、と思った。