備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

埴輪

鄙びたバス停で降りた先の小さな書店。 その店のレジを左に見て右側は、接ぎ木したように体育館になっている。性齢関係なしに色々な人がいた。奥の舞台のそのまた奥の壁は木の板で、その辺りにだけ、異様な緊張が満ちていた。今にも、その板が割れて、中に充…

鬼子

それぞれ水色とピンクのワンピースを着た双子の少女が、私を見て笑っている。 言い知れない危険を感じて、慌てて玄関から外に出てドアを閉めたが、振り返るとそこにも双子の少女がいた。重い胎を抱えながら、精一杯の速さで屋根の付いた屋上に出る。双子は白…

鳥の囀り

鳥の鳴き交わす声が聞こえている。 邸宅の最奥は和室で、着物の袖をたくし上げ、畳に置いた洗面器に顔を入れた。水が張られているので息が苦しい。口を開けねばならず、口腔から唾液が流れ落ち、水と混じった。 隣には人が仰臥しており、微動だにしないので…

宇宙の干渉

突然、立っていられないほどのGがかかり、それがなくなると今度はエレベーターが降下するときのような、鳩尾にくる浮遊感があった。 窓の外が暗くなっていて、遠くに地球が見える。ここは宇宙船の内部で、たった今、地上から宙へ噴射されたのだ。「地球は青…

火を焚く男

深夜、新宿南口への高架下を歩いていると、女子大生2人が警官と言い争っていた。通り魔に遭ったのですぐ捕まえてほしい、という彼女らに、警官は取り合う気がないらしい。私は道路の反対側を歩いていたので目につかないようだったが、なるべく見つからない方…

鯨と海上古代都市

またしても追われている。これも仕事の一環なのかもしれない。 長い髪を帽子に隠して変装した少女と、都内の某私鉄ホームで待ち合わせていた。電車から飛行機に乗り換え、手首につけたPDAで他所にいる仲間とやり取りする。敵に見られてもいいよう、文面を工…

ヒヨコ売り

これ以上駆けたら肺と心臓が喉から出てしまう、というくらいに、無我夢中で走っていた。 空は黄ばんだ灰色で、雨が降る前の夏の夕暮れなのだろう。辺りは異様に静かだった。大勢が息を潜めているような気配だけがあり、見張られているのが感ぜられた。 小学…

刺された子

心臓のあたりを刺したのだろう。 薄暗い書斎である。微かな陽光が、宙の埃を光線のように見せていた。友人は少女と向かい合い、私は跪いて少女の後ろ姿を見ていた。友人の顔は逆光でよくわからない。 正面からなのでうまくいかなかったのか、すぐには死なず…

蛇口から顔

幼稚園から小学校にかけて、風変わりな老人のアトリエで、絵を習っていたことがある。習ったといっても技術を教えてくれるわけではなく、週に一度アトリエに行っては、好きな絵を描いて帰ってくるのだった。生徒たちも、絵というよりは脳味噌のような迷路ば…

追われる少女と蛙

何か取り返しのつかないことをしてしまったようだった。 追われる身として、目立つ方法は避けたかった。彼はトラックの荷台に隠れてどこかに行こうとするが、結局逃げられない気がして降り、そこから徒歩で最寄りの駅に向かう。当日の乗車券をぎりぎりのとこ…

茅の輪くぐり

何の研究施設だろうか。要塞のように大きく、ブリューゲルのバベルの塔を下部だけにして、白くしたような建物だった。辺りにはこれのほか何もなく、一面は盆地のように少し傾斜のついた草原だった。空気の感じから、標高が高いのだなと思った。寒かったのだ…

脳味噌露出男

階段を上がって部屋に入ると、老婦人とはぐれたことに気がついた。 慌てて踵を返し、玄関あたりで、人が倒れているのを見つけた。笑顔のマークを落書きをされた段ボール箱を被せられている。恰幅良いスーツ姿なので老婦人ではないのだが、一応誰なのか確認す…

餃子

近所に住んでいる学生たちが餃子を食べに来たので、餃子パーティを開くことになった。面識もないのになぜそんなことになったのか、見当がつかないが、おそらく私の知らないうちに決まったのだろう。 といっても餃子を作るのは私一人なので、十数人分の食材を…

落ちてくるもの

遠く高層建築物の外階段から、大きな鳥のように、落ちてくる影がある。何か不吉な予感がして、慌てて屋内に駆け込んだ。 午後の陽光が差し込む廊下は、長く、何故だか大学の頃を思い出した。両側にある一つ一つの部屋は独房のようで、それぞれにスピーカーが…

夢を見せる人

夢を見せる人がいるという。 木の床、暖色に塗り上げた壁、天井は生形の布で覆われたホールで歓談していると、知人がやってきた。色とりどりのセロハンのような軽くて柔らかいガラス、光る糸の束で、さながらカーニバル衣装である。 バンドウさんに頼むと、…

ロボット女と黒服男

「エン(ム)、アキドに交替」 突然耳元で命令が出た。たぶん通信機をつけていたのだろう。コンクリート打ち放しの建物の階段を下る。広い踊り場に2つの影を認めて指示を待つが、故障したのか音がしない。カメラから死角なのかもしれない。 1人は中年女で、ロ…

小銭おばけ

朝の通勤電車ときたら、芋を洗うどころの話ではない。血で血を洗う戦場のごとき混雑である。乗車率は200%に達し、荷物の代わりに網棚に寝そべった方がまだましだと思われた。とはいえ皆、不幸にも常識を持ち合わせてしまったがために、大人しくすし詰めにな…

ゾンビ

秋晴れの気持ち良い朝だった。家人に連れ出され、珍品の展示会に行き、途中はぐれたので帰りは1人になった。 駅の改札を抜け、ホームに降りようとすると、エスカレーターの前に女子高生がいて通れない。何かと思い肩越しに覗き込むと、下りのエスカレーター…

シンボル

ここでは誰でも、自分のシンボルというものを持っている。例えば少年の友だちは「水銀」をシンボルとするため、体温計が割れたときに中身が溢れて体内に入ったのも大事はなかった。 シンボルを持つということは、その要素を幸運の符丁にするということ。身近…

あよし・雪留め

「あ、よし。あ、よし」と掛け声を発しながら跳ねてくる「あよし」という生き物がいる。華美な赤いやじろべえのような姿で、指ぬきくらいのものもいれば、掌ほどの大きさのもいる。成長の進度の違いではなく、単に個体差のように観察される。生き物というよ…

首なし

洗面所で顔を洗って何気なく鏡を見ていると、小刀を持った腕がすうと伸びてきて、私の首を落とした。 あんなに小さな刃でよく切り落とせたものだ。首が落ちたはいいが、死にはせず、苦しくもないので妙である。目が無いはずなのに、鏡の中には首のない自分が…

ホウキギで飛ぶ先生

昼下がりの晴れた日だというのに、視界は青いフィルターをかけたような色合いだ。元の色を知っているから赤を「赤」、黄を「黄」と判別できるが、初めて見るものは全て青いものとして認識される。この天気のときにはツキが回ってくる。何かをするには、晴れ…

カラストンビゴキブリ

一人で家にいると、ヤツが出た。動きの素早い黒いヤツである。Gのつくヤツである。ゴキブリである。 子どもの頃はそこまで苦手ではなかったと記憶しているので、この嫌悪感は後天的に周囲の反応から培われたものだろう。北海道出身のイトコは、ゴキブリを何…

秘伝の書USB

今晩くると言われていた台風が、上陸が早まったのか昼前には到着し、そのため午後の授業が始まる頃には暴風雨になった。時間割を確認すると、次の授業は体育である。どう考えても屋内、もしくは自習になるはずだが、クラスメイトは次々と教室を出て、更衣室…

2つの意味を持つ話法

ある一つの単語が為政者を意味し、その単語を含む一文はその政治形態を表す。一文の長さは統治の長さを示している。 また、章を構成する一つ一つの節は、ある政治的な思想を喚起するようなシラブルを持っており、そのため「言葉として現れる物語」と「イメー…

北極のテーブル

夜中、ふと目が醒めると、隣に寝ていた父も母もきょうだいもいない。月明かりは青々として、普段とは違う白いカーテンが風に揺れている。窓が開いているのだ。 窓の外は視界が遠くまで拓けており、その先には海が見える。月の夜には海原が光を反射し、黒と白…

白人形の片足坊主

池の縁には大木のような泥人たちが、その身を暖かな日差しで乾かしては、泥を塗りたくるのを繰り返している。そうやって泥人は、バウムクーヘンの要領で膨れ上がる。人間が衰え死んで塵になるのと同じに、泥人も成長しきると、崩れて土くれに還る。 池から離…

夢の話

小さな頃は、夢を見る方だった。将来の目標ではなく、レム睡眠時に見る夢である。これは誰でも見るが覚えていないだけだという。だから正しくは、私は見た夢をよく覚えている方、ということだ。殺されたり追いかけられたり、どこかから落ちたりと、恐ろしい…