備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

刺された子

心臓のあたりを刺したのだろう。

薄暗い書斎である。微かな陽光が、宙の埃を光線のように見せていた。友人は少女と向かい合い、私は跪いて少女の後ろ姿を見ていた。友人の顔は逆光でよくわからない。

正面からなのでうまくいかなかったのか、すぐには死なず、少女はこちらを振り向いた。動くことができず、じっとその目を見た。

「肋骨が邪魔でね、」友人は今度は後ろから刃物を立てて説明する。「背中からじゃないと心臓に達さないし、刃は横向きにした方が骨に当たらない」

少女は声も出さず、少し困った顔をした。何をされているのか、わかっているのだろうか。

足元に血だまりができて、手で支えると、力が抜けたように崩折れた。床に寝せると、友人がビニール袋を持って来た。中に詰めるように言われる。それから我に返ったように、ああ、しまった、本当に殺してしまった、と呟いた。特に口止めされなかったが、それは暗黙の了解だ。

2人はよく似た顔をしていた。すっかり忘れていたが、親子なのだった。

早く自首したい気持ちと、友人を庇いたい気持ちとがあり、時間を稼ぐために交通用の高速リフトで逃走した。何らかの機構によって遠心力を利用し、車より速く遠くに行ける乗り物で、手でぶら下がっていないといけない。上下の落差が激しく、体操選手のようにバーを起点に回転し、心臓が止まりそうになる。刺された人間を見ているときより胸が苦しいのが、少し可笑しかった。あるいは感情が遅れてやってきたのかもしれない。

このままなかったことにしてしまうのは、私が殺したのも同じこと。初めて会った子どもよりも友人の味方でいたい気持ちがある。

同時に、正しいのはきっと自首して何もかも言ってしまうことで、おそらくその方が友人のためにもなると思われた。なにより、私自身が罪を告白して、早く楽になりたかった。

いままで何人か殺したが、あんなに幼い子が死ぬのを見るのは初めてだった。