空を飛ぶのと同じことの話
放置していた携帯電話を充電すると、不在着信が入っていた。しばらく疎遠になっていた友人からであった。
折り返しの電話をかけると、今度は相手が出ない。留守電に残すほどではないと思って一度切ったが、しばらくするとやはり気になり、結局メールした。着信があったが、かけ間違いだろうか、それはそうと久しぶりだが元気にしているか、という内容を打つ。
その日は返信が来なかったのでそれきり忘れていたのだが、一週間ほど経って応答があった。なんとなく電話したくなっただけだという。これがきっかけで、久々に会うことになった。
およそ10年ぶりの友人は、当時の記憶から抜け出したように変わりなかった。成人してから会うのは初めてだ、せっかくだから一杯飲もうと言って笑った。
たぶん会って話したいようなことがあるのだろう、という予想が当たり、友人はさっそく口火を切る。いま迷っていることがあって、なかなか実行する勇気がない。お前は新しい仕事も順調だし、結婚して家庭もあると聞いたが、どうしたらそんなに色々なことに踏み出せるんだ。
友人が何をしようとしているかは、言い渋ってらちがあかないので、深入りしないことにした。何かに挑戦しようとしているのだろうと検討をつけて、ガラにもなくアドバイスなどする。友人はふうん、とわかったようなわかっていないような返事だ。背中を押すつもりで、お前なら絶対できるから、何も考えずにまずはやってみなよ、と肩を叩いた。
帰り道、友人からメールがきた。応援したことへの感謝から始まっていた。
「決心するには、思考が追いつく前に身体を動かしてしまうこと。つまり、迷わないうちに足を踏み出してしまうのが、成功の秘訣なんだろう」
メールを読み終えるとそこで充電が切れてしまい、そのまま返信せずにいた。
この一週間後、友人の訃報が届いた。見ていた人の話では、高いビルから飛ぶように落下したのだということだった。