備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

あよし・雪留め

 「あ、よし。あ、よし」と掛け声を発しながら跳ねてくる「あよし」という生き物がいる。華美な赤いやじろべえのような姿で、指ぬきくらいのものもいれば、掌ほどの大きさのもいる。成長の進度の違いではなく、単に個体差のように観察される。生き物というよりは、呪いをかけるために使役される半機械半生物だ。生産繁殖のペースが早いので、個人が飼育すると手に負えず、逃がしてしまうことが多々ある。野良化というのか、そうやって人の手を離れ野性化したものは、いろいろな事故の原因となる。道路を暴走するトラックは、よくこれに誘導されて人を轢くようである。高速道路や夜の工場など、ひと気のない人工物に集まりやすく、捕まえるのは容易いが、捕まえておくのが難しい。硬いはずなのに、うまく身をひねって網の隙間から逃げてしまうのだという。

 町はずれの納屋には、人目につかず「雪留め」というものが住み着くことがある。白くて美しく、白玉くらいの大きさで、ふわふわの綿毛のような姿だ。ケセランパセランや、よく浮遊している犬の和毛のように見える。雪留めは人に害をなさない。生き物なのかも怪しいところだが、菌類よりは動物に近いという。鳴くことはない。何も気にしていないと寄り集まっているのを見つけられるが、いざ探そうとするとあまり見つけられない。

 私はどちらも見たことがあるが、あよしの方が不気味に感じる。言葉を発するからである。道路を飛び跳ねてくる様子は、体表が光を反射して、遠くからでも煌めいてよく見える。近づくにつれて、その掛け声が聞こえ出す。「あ、よし」というのはまさか人語ではなかろうが、そう聞こえてしまうのでゾッとする。

 ただ、人によっては雪留めの方が恐ろしいという。何もしないでただそこにいるのが気味悪く、嫌な気配を発しているのらしい。犬や猫が嫌いな人もいるのだし、誰にでも好かれるものはないのが当たり前だが、少し意外に思った。