備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

追われる少女と蛙

何か取り返しのつかないことをしてしまったようだった。

追われる身として、目立つ方法は避けたかった。彼はトラックの荷台に隠れてどこかに行こうとするが、結局逃げられない気がして降り、そこから徒歩で最寄りの駅に向かう。当日の乗車券をぎりぎりのところで取り、飛び乗った。女がいた。彼女も逃亡者で、人目を誤魔化すための道連れを探していた。二人で都心を離れようとする。

いつのまにか警察が乗っていたが、それは二人を追っているわけではなかった。理由はわからないが、野良猫のような一人の少女が追われている。何かのきっかけで彼は少女を匿うことになる。女は初め、足でまといだからと反対していたが、そのうち打ち解けて面倒を見るようになった。

車両の客は少なく、その一人の巨漢は味方になった。車掌が来るときは、少女は足元に丸まってコートを掛け、荷物のふりをした。ドアの向こうに警官が数人いるが、特に気づく様子はなく、車両にも入らない。

よく晴れていた。新幹線を降りると、少女は一目散に山に駆けていった。なぜだかわからないが、警官は少女を見逃すことにした。また、女は自首した。彼と女は警官との話し合いが済むと、少女の後を追って山に入った。

少女は山間の見晴らしの良い野原にいて、両手で持ち上げるほどの大きさの、美しい緑色をした蛙と遊んでいた。蛙は日を照り返して、ゼリーのように光っている。ここでの彼女は見違えるほど美しく、駅で会ったときとは別人のようだった。

湿気のないせいか、蛙がぐったりしてきた。ふと気が付くと、遠くの空に雲が生じ、みるみる広がって来る。雨を呼んだんだわ、と少女が嬉しそうに言った。少女が口をきいたのはこのときが初めてであった。驚くべき速さで雲は空を覆い、雨が降り出した。早く山を降りようという女に、直ぐやむかもしれないと答えながら、彼は蛙を見ていた。雨を降らせたのが、蛙なのか少女なのかはわからなかった。