備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

夢を見せる人

夢を見せる人がいるという。

木の床、暖色に塗り上げた壁、天井は生形の布で覆われたホールで歓談していると、知人がやってきた。色とりどりのセロハンのような軽くて柔らかいガラス、光る糸の束で、さながらカーニバル衣装である。

バンドウさんに頼むと、五分で一生の夢を見せてくれるのだという。彼女はいま一人分の人生を終えて来たが、名残は現実に多少反映するらしい、と言って、その風変わりな格好でくるりと回った。確かに、現実とは思えない出で立ちだった。

皆で行ってみようという話になった。珍しく私はあまり気乗りしなかったのだが、それがただ気分ではなかったのか、それともここが既に夢であることを感知して、夢の中で夢を見ることを不安に思ったかはよくわからない。

すぐ近くだというので、下駄箱から靴を取り、校庭のフェンスに沿って歩いた。連れ立って歩くうちの一人が、やっぱり一緒に行くんじゃん、と言う。他の誰に言われても気にならないが、この人に言われるのは大変頭にきたので、黙っていた。なぜいつもこの人の言動だけが勘に触るのか、不思議だ。

しばらくすると行列のしんがりが見えてきた。建物をぐるりと囲んで待つので、ガラス越しに中が見える。私はてっきり、催眠術のように寝かせておいて、ちょいと魔法をかけるのだと思ったが、そうではなかった。

バンドウさんの夢の見せ方は、こうである。

半球型の大きなバスケットに乗って、クッションの上で、夢見せる相手を膝にぴったりと抱え込む。耳元で何かずっと呟いているのは、まじないだろうか。この五分か十分かそこらで、相手は何十年もの夢を見る。並んでいる私たちが見守っていると、やがて姿や衣装が変化した。夢の中ではこんな形なのだろう。目覚めた時もそれは少し残っている。

短い時間とはいえ、これだけ大勢を相手にしていて、バンドウさんは寝る時間があるのだろうか。彼自身は夢を見れないのか少し気になった。