備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

ゾンビ

  秋晴れの気持ち良い朝だった。家人に連れ出され、珍品の展示会に行き、途中はぐれたので帰りは1人になった。

  駅の改札を抜け、ホームに降りようとすると、エスカレーターの前に女子高生がいて通れない。何かと思い肩越しに覗き込むと、下りのエスカレーターを上ってくる、様子のおかしい人がいる。脇をすり抜けていった男性が捕まり喉元を噛まれた。蹴り落としても死なず、こちらに向かってくる。慌てて近くにいる数人で一団となり、徒歩で家へ向かった。

  私の他には知らないおじさん、駅にいた女子高生、そしてその父親である。眼鏡をかけたハイジのおじいさんのようなその人が、この中で一番頼りになる人物だった。彼によると外にいるのはゾンビではなく、生きた人間である。それが死ぬとゾンビになるらしい。

  「この中でたった1人の女の子でまだ子どもなので、なんとか彼女だけでも安全な場所に逃がしたい」というハイジのおじいさんの懇願に、私もおじさんも同意し、万が一のときには守ることを3人で約束する。しかし女子高生は私よりよほどよほど勇敢で、彼女を助けようとしているのに他の人を助けに行ってしまったり、逆に私が助けられることもしばしばであった。

  鼻をつく異臭は皮膚に染み込んでくるようだったが、数日経つと麻痺して慣れた。それよりも食べ物がないことが辛く、私は誰よりも弱音を吐いた。兵糧攻めの様相を呈してくるが、外にはなかなか出られない。

  動かなくなったゾンビで家の周りに肉の防壁を築く。夥しい蛆が流れ、一緒に作業していたおじさんに「蛆って食べられますかね?」と軽口を叩くと、「食感が無理だったよ」と泣き笑いのような顔をされる。このとき初めて、私と違い泣き言の一つも言わなかったこの人も、家族とはぐれた人であったことに思い至り、深く恥じ入った。同時に、自分の家族がもういない可能性を思い、今のうちに死んだ方がましだとも考えた。