備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

カラストンビゴキブリ

  一人で家にいると、ヤツが出た。動きの素早い黒いヤツである。Gのつくヤツである。ゴキブリである。

  子どもの頃はそこまで苦手ではなかったと記憶しているので、この嫌悪感は後天的に周囲の反応から培われたものだろう。北海道出身のイトコは、ゴキブリを何だか知らないので、触角を摘んで持ってきたことがある。南の方の巨大なヤツを見たら、大喜びしたかもしれない。

  それなので今でも、人が言うほど怖くはないのだが、今目の前にいるのは、猫ほどもある大きさだった。好き嫌いの問題ではなく身の危険を感じる。ネズミだって人間の子を喰うのだから、ゴキブリでもこれほど大きければ大人1人くらいは食べるであろう。

  口にはイカの嘴のような、カラストンビ状の顎板がついていて、これに噛まれると人間のごときか弱い肉体はひとたまりもない。やられたことがあったかは覚えていないが、スッポンさながら、食いついたら離さないと聞く。無理に取れば肉ごと削げてしまうらしい。

  衛生面でも問題があり、すぐに消毒しても、なんだかよくわからない病気にかかるという。

  普段ならゴキブリが出ると、叩き潰すのは抵抗があるので外に追い出す。この大きさであれば、余計に殺したくない。飛び散る汁や残滓の量を考えてしまうからだ。

  追い出されたゴキブリは家を覚えていて、戻ってくるという。近所でも道に迷う私より、よほど帰巣本能が強いと見える。ひょっとすると私の家ではなくヤツらの家なのかもしれない。なので遠い場所に放さないといけないが、この猫的巨躯の虫を運ぶ自信はなかった。飛ぶ可能性を考慮すると、近づきたくないのはなおのことだ。

  ゴキブリの何が苦手かといえば、素早さや色よりも、あの質感と、脚のトゲだ。ミツバチのようにふわふわの毛が生えていたなら少しは好きになれる。今回の巨大生物だって、サイズだけではなく、もう少し外観も猫に似せてほしいものだ。