備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

白人形の片足坊主

 池の縁には大木のような泥人たちが、その身を暖かな日差しで乾かしては、泥を塗りたくるのを繰り返している。そうやって泥人は、バウムクーヘンの要領で膨れ上がる。人間が衰え死んで塵になるのと同じに、泥人も成長しきると、崩れて土くれに還る。

 池から離れて、泥の跡がとぎれがちに続いていた。泥人は基本的に水場を離れないのを考えると、おかしなことだ。庭で遊ぶ子どもたちに誰か通ったか訊くと、年かさの子が答えた。

 「白人形の片足坊主が通ったかもしれない。泥踵だからすぐにわかるよ」

  家の中を探すことにした。昼を少し過ぎたくらいで、外はもちろん明るい。対照的に、家の中は奇妙に薄暗く見える。

 窓の外側に泥の塊が落ちていた。サッシのところで泥がこそげたようだった。しゃがんで目線を下げると、薄い泥の跡が反射し、侵入者の存在を示していた。それは居間を横切り、廊下の方へ続く。跡を辿ると、畳の部屋あたりでとうとう途切れてしまった。

 白人形の片足坊主は部屋の隅で布団に紛れて隠れていた。泥人が混じっているのだろう、踵が泥なので、それが床に擦れてしまうのだ。

 一本だけの脚、膨れた白い肌、ペッタリした黒い髪、女のような顔。どこがどうとは言えないが、全体として生理的な嫌悪感を抱かせる。造形というより、白人形らしい卑屈な態度がこちらの神経を逆なでするのかもしれない。おびえた様子で何か呟いている。片足坊主と意思の疎通がうまくいった例はなかったが、白人形ともあればなおさらである。

 白人形が理由もなく人家に入ることは、滅多にない。何かを盗もうとしていたのだろう。そのため本来なら、悪さをしたら少し痛めつける。そうしないと味を占めて、また来るに違いないからだ。しかしオドオドとこちらを見上げている白人形を見ていると少し哀れになったので、追い出すだけにしよう、と言った。

 途端にニタッとしたので、やはり殺すことにした。