備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

北極のテーブル

  夜中、ふと目が醒めると、隣に寝ていた父も母もきょうだいもいない。月明かりは青々として、普段とは違う白いカーテンが風に揺れている。窓が開いているのだ。

  窓の外は視界が遠くまで拓けており、その先には海が見える。月の夜には海原が光を反射し、黒と白の入り混じった、光る大地のように見える。それをもう知っていたので、ベランダに出て外を眺めようとは思わなかった。

  夜中である。この時間に起きだすのは、この頃の私には稀なことであった。いったい家族はどこに行ってしまったのだろう、私を置いて行くような、どんな理由があるのだろう。

  父母は遅くまで起きていることがあり、そういう時は居間でなければ、廊下に面した書斎にいる。それならば話し声が微かに聞こえ、扉の下から明かりが漏れ出しているのですぐにわかる。が、書斎に向かう廊下は暗く、やはり誰もいないようだった。

  左手にはトイレがあり、その先には洗面所と風呂しかない。廊下の正面には玄関があり、覗き穴が一つ、目のように輝いている。屋外からの光を受けているのか、家の中の月光をここでも反射しているのかは、わからなかった。

  マンションの一室というサイズ感でも、静かな夜には広々とし、寂しいものだ。居間に戻って部屋を眺めるうち、ああ、と違和感に気づいた。ものがないのだ。雑然と散らかった普段からは想像できないほど、ほとんど何もなく、よく整頓された書棚や、テーブルくらいのものであった。

  テーブルは木でできている。それがいまは、内から仄暗く発光しているようで、どうも木の質感と思えない。初めは外からの光でわからなかったのだが、窓を背に立つと、私の影の中でも妙に明るい。しばらく吟味し、北極の氷を切り出したものだとわかった。前のテーブルが古くなってしまったので、新しく北極から持ってきたのであろう。冷たくないのが不思議だったが、きっとそういうこともあるのだ。