備忘録

夢とか白昼夢とかのメモを薄くしたり濃くしたりしたやつだよ。カルピスと一緒だね。

2つの意味を持つ話法

  ある一つの単語が為政者を意味し、その単語を含む一文はその政治形態を表す。一文の長さは統治の長さを示している。

  また、章を構成する一つ一つの節は、ある政治的な思想を喚起するようなシラブルを持っており、そのため「言葉として現れる物語」と「イメージとして想起される物語」とが全く異なったものになる。つまり、2つの意味が同時進行的に語られる。

  今朝、路地を歩いていると、裏通りの監獄から囚人たちの歌声が聴こえてきた。彼らは朝早くに叩き起こされ、こうして合唱することになっている。それが監獄の日課かと思っていたが、どうもそうではないらしく、好きで歌っているとのことだった。

  話を聞くまで知らなかったが、一堂に集まって始めるわけではないらしい。それぞれの監房で誰かが最初の一声を口にすると、波のように広がり、一糸乱れぬ唱和になるという。何かの作業の折りではなく、歌うときはそれだけを、一心不乱にやるらしかった。

  一説によると囚人たちは、歌われる物語とは別に、識閾下へと届く思想を語っているという。サブリミナル効果のようなものだ。それはこの自治区では本来推奨されているはずだが、その意味するところ、つまり何をイメージさせる目的か明示しなかったため、投獄されているのだ。よく知らないが、自治区の規則なのだろう。

  ここに越してきてしばらくになるが、この「2つの意味を同時に喋る」というのにはなかなか慣れない。「飼い犬にどれだけ手を焼いているか」という話を聞いていると、後から友人に「あの人は今度の選挙でこういう理由で例の党に票を入れるらしい」と解説される。しかもその解説すら、別の文脈を持つのである。

  少なくとも表の意味は日本語だが、誰に訊いても、裏の意味も日本語なのだという。どうやって習得しているのか、区内の本屋に行っても、参考書などは売っていない。さっさと別のところに引っ越した方が良い。